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公立美術館で見学できるSingulart所属のアーティストたち

今回は公立美術館に作品を展示したSingulart所属のアーティストたちの体験をご紹介しよう。アーティストのキャリアには美術館での展示は欠かせないもの。名を馳せる彼らアーティストのインスピレーションの源は何だろうか?彼らから若い芸術家へ向けた助言も聞こう。

なぜ公立美術館か?

アーティストにとって、自分の作品が選ばれて美術館に展示されることは名誉なこと。自分の仕事の価値を保証するものとなるから、キャリア上とても大事な瞬間だ。アートコレクショナーやバイヤーにとっては、公立美術館とコラボするアーティストの作品はプロの太鼓判を得ているも同然だ。

だから美術館での初展示や回顧展の後は、必ずと言っていいほどオークションで彼らの作品の値段が上昇する。ピーター・ドイグ(Peter Doig)やジェフ・クーンズ(Jeff Koons)なんかがそうだ。

美術館での展示は芸術家が世に認められる第一歩となるのだ。

公立美術館とアートギャラリーの違い

作品が展示・販売される場所がアートギャラリー。これに対して美術館は、作品の持つ価値(文化、歴史、また科学的な価値)を前面に出して作品を公開する場所。美術館に選ばれた数々の作品は文化を象徴するものとなり、美術館はそれによってものがたりを語る機関となる。

美術館とギャラリーの違いをよりよく知るために、ニューヨーク近代美術館ロンドンヴィクトリア&アルバート博物館、アムステルダムのゴッホ美術館などに展示した経験のあるSingulartのアーティストたちに話を聞いてみた。

Laddie John Dill

Laddie John Dill

“Laddie John Dillは、ロサンゼルス・ウンティ美術館やニューヨーク近代美術館(MoMA)などで、世界中で60以上もの個展、150ものグループ展を行ってきた。

Laddieのキャリア

“Laddie John Dillは、ロサンゼルス・カウンティ美術館やニューヨーク近代美術館(MoMA)などで、世界中で60以上もの個展、150ものグループ展を行ってきた。Laddieのキャリアは公立美術館や有名ギャラリーでの展示会から始まり、今日では名の知れるアーティストの一人となっている。公立美術館とコラボレーションをした際のお気に入りの思い出を聞いてみたら、MoMAとのコラボが彼のキャリアの中で一番印象的だったとのこと。2011年、MoMAはニューヨークのDavid Zwirnerギャラリーで、砂とガラスとチューブでできた彼の作品Sand Pieceを手に入れた。「MoMAはその時3キロの砂を買ったのでした。」当時LaddieはMoMAが彼の作品を公開せずに収納庫にしまって置くのではないかと心配したそう。そして一年後、MoMAはLaddieに作品を展示するようにと頼んできたのだった。”

この時を振り返ってLaddieは、MoMAでのインスタレーションの際には美術館側の高いプロ意識に触れ特別な体験ができたと語った。作品の設置には美術館が用意した5人のアシスタントの助けを借りることができ、なんの不自由も困難もなくインスタレーションができたのだ。限られた手段でなんとかしなくてはならなかった、これまでの小さなギャラリーでの経験とはだいぶ違う体験だった。

おまけに、一週間以上かかった作品設置の間、美術館の方は一般に公開されていたので、美術館へやってくる人達にインスタレーションの各段階を見てもらうことができた。このこともLaddieにとってはユニークな経験となった。当時のコラボレーションは成功し、今でもLaddie はMoMAとのコラボを続けている。現在のコロナ禍が静まり次第、MoMAではLaddieとの共同スペクタクル「 Light and Space “が催される予定だ彼の作品は世界中の美術館で見ることができる。以下、2017年のMuseo Acheologico di Napoli での展示をお見せしよう。”

“Antiquitas in Luce (2017) – Laddie John Dill Museo Acheologico di Napoli での展示© Laddie John Dill”

Laddieに、若いアーティストへの助言を聞いてみた :

「高く望みましょう。期待を減らさないでください。もし、ギャラリーや美術館とのコラボレーションに確信が持てないときには、行わないことです。自分に拒否する権利があることを忘れないこと。そして自分からギャラリーに近づかないで、ギャラリーの方からこちらへやって来るようにするのです。」

Pieter Ceizer

Pieter Ceizer

“オランダ出身のPieter Ceizerは今、Van Gogh d’Amsterdamとコラボレーション中だ。来たる12月にはPieterは同美術館で、ゴッホの静物を描いた「カリン、レモン、桃とぶどう(Quinces, Lemons, Pears and Grapes)”. についての彼独自の解釈と衣装のコレクションを発表する予定である。

Ceizer X Van Gogh Museum

アムステルダムのゴッホ美術館とのコラボレーションは、パリに住むPieterにとっては母国オランダとの繋がりを見直す良い機会であり、ゴッホの作品の中にインスピレーションを探る機会でもある。この20世紀の巨匠ゴッホのように、Pieterもパリに住むためにオランダを去った。ゴッホはパリへ移住したことで作風を一変させ、1886年、彼の黄色に代表される、より明るい色、より眩しい色を発見したのだった。

同じように、パリはPieterにとっても、彼の作風を変化させる場所となった。Pieterはコレットやエアフランスといったフランスの数々の大企業とコラボレーションし、ゴッホ同様、Pieterの作品は明るくなり、輝くようになった。輝く色や踊るような形、詩的で力強い世界をPieterはパリに贈ったのだ。

© Pieter Ceizer

Pieterにとって、ゴッホ美術館のような由緒ある美術館と契約を結ぶことは、芸術家として認められることに値するそうだ。今、芽生えつつあるアーティストたちにはこう言っている。

今、芽生えつつあるアーティストたちにはこう言っている。

人生はTo-Doリストではありません。自分自身と自分のアートに投資し続ければ、あとは自然に引き寄せられるでしょう。

ゴッホの作品
「カリン、レモン、梨とぶどう」の再解釈にとりかかる Pieter Ceizer
© Pieter Ceizer

Sol Kjok

Sol Kjok

Sol Kjøkはノルウェー出身、ニューヨーク在住のアーティストだ。彼女の作品は、アメリカはシンシナティ美術館中国西安Shaanxi Province Art Museum 、マケドニアはスコピエのOsten Museum of Drawings、そしてスウェーデンのラホルムにあるTeckningsmuseetといった世界の三大陸にまたがる美術館に常設展示されている。”

これらの美術館のコレクションにあるSolの作品は全て、彼女自身と彼女の友達を表現したもので、宙吊りになった裸体が空間に散りばめられて描かれている。

美術館の重要性

Solはアーティストとして美術館に展示することは重要だと信じている。美術館のコレクションに自分の作品が加えられることは、アート界の専門家から評価され認められたことを意味し、大学の学位や専門の肩書きと同様、仕事の価値を公的に保証するものとなるからだ。

“中国西安のShaanxi Province Art Museum におけるSolの作品。”

美術館に作品展示すると、アートコレクショナーに見つけられやすくなるのです。もっと大事なことですが、美術館に作品があるとより広い範囲の人に見てもらう可能性が出てきます。私のメッセージがより多くの人々のもとへ届くことになる。このことはアーティストとしての私の最大のモチベーションとなっているのです。

若いアーティストに向けて彼女は、 成功する芸術家たちのキャリアはすべて努力とチャンスからなる。だから、どんな逆境や不遇に遭っても作品を作り続け、できるだけ美術館の責任者の目の留まるところに作品を展示し、人々に自分を知ってもらう努力を怠らないことだ、と語っている。

Roger Ballen

Roger Ballen. Roger Ballen。Marguerite Rossouw撮影。

Roger Ballen は21世紀において最も影響力のある写真家の一人だ。南アフリカ出身の彼の作品はMoMABrooklyn Museum、パリのポンピドゥセンター(Centre Georges Pompidou)そしてロンドンのV&Aといった世界中の美術館に展示されている。彼が自分の作品を美術館に展示し始めたのは1995年だが、その前年の1994年、ロンドンのRoyal Festival Hallでの大展覧会に初めて展示したことを今でも覚えているという。

“私たちは、つい最近彼がオーストリア・リンツにあるFrancisco Carolinum美術館でRoger the Ratというタイトルの回顧展を行った時のことについて聞くことができた。この回顧展ではRoger Ballenの50年にわたるキャリアを全て網羅する写真を展示したそう。キャリア中に出版した写真集ごとに展示場所を区切り、ごく最近の写真集Roger the Ratをはじめとする数々の写真集の中から、Rogerの写真家としてのキャリアの中で、もっとも大切な作品を選んでいったという。” publication.

Roger Ballenの作品コレクションは、シリーズごとに大きな繊細な字体で書かれたラベルが貼られ、非常に美的にまとめられていた。

Roger Ballen, Smoked Out, 2020

Ballenの写真は非常に内面を語るものがあり、精神的すぎて、これを観る人はこれを後々忘れることができないほどだ。鑑賞者の無意識に語りかけるものがあるのだ。Roger曰く、インスピレーションは自分自身の仕事から得ているとのこと。「自分のやっていることから何も発想が得られないなら、いつまで経っても非常にいい作品はつくれませんね。」

Ballenは写真だけでなく、映画によっても知られている。さまざまな表現媒体を用いると、時にキャリアをより速く積んでいけるものだ。

若いアーティストへのBallenの助言をいくつか紹介する。まずは、手がけている作品が全体として一貫しているよう心がけること。そうすれば、美術館の責任者にそのまま見せることができるから。もう一つ大事なことは、自分の作品がチーフキュレーターの好みに合っているかどうかを知ること。これは展示の良し悪しに関わってくるからだそうだ。

©Michael-Maritsch

芸術の世界は客観的ではないので、決まった道も簡単な方法もないのだとBallenは付け加える。「仕事が自分にとって大事なものだと感じているなら、美術館に連絡をしてアポイントメントを取るべきです。」

「アーティストであることにはたくさんの仕事量と献身さが必要とされます。 自分の仕事に情熱を抱いていること、仕事の高いレベルを保ち続けることは大事です。」

Peter Bardazzi

Peter Bardazzi

“よく名の知れたアーティストPeter Bardazziは日本の金沢21世紀美術館(21st Century Museum of Contemporary Art)をはじめWhitney Museum of American ArtやニューヨークのMoMAなど、多くのギャラリーや美術館、時には大学の美術館にまで展示をしてきた。”

1971年にMoMAは彼の作品「 Untitled(無題) (以下参照)を手に入れた。それは空間の中で機械の部品が複数、急旋回するのを抽象的に表現した作品だ。この時、Peterにとって印象的だったのは、彼自身この作品をMoMAに展示しようと思っておらず、逆にMoMAが彼の作品を選んだという事実だった。 現代美術館を含め、誰にも無理強いしてはいけないということは、Peterにとっては大切な教訓だそうだ。 .


ニューヨーク近代美術館コレクション。 1971年 「 Untitled(無題)紙に鉛筆
26 1/8 x 40″ (66.3 x 101.6 cm).

彼によれば、コマーシャルギャラリーと公立美術館は、芸術作品の取り扱い方が異なり、作品に果たす役割も違うそうだ 。ギャラリーは芸術作品とアーティストたちを売る役目を担う一方で美術館は芸術作品をありのまま鑑賞することに重きを置いて、より広い範囲の人々をターゲットとしている。このように、アート商業と現代美術は必ずしも同じ価値観を持たないが、常に相互作用をしているのである。

Peter Bardazzi、Neuberger Museum of Artでの展示にて(2006)。

Peter Bardazziは、数々の公立美術館での作品展示のおかげで、有能で真面目なアーティストとして自分が認められたのだと考えている。

「権威のある美術館に目を留められて、斬新なアイデアを実験的に創作しているアーティストだと認められたら、私のほうでもできるだけ素晴らしいアートを造らねば!という意気込みが出てくるものです。 若いアーティストへ向けてBardazzi氏は、自分のアイデアや問題意識に興味を示す美術館や芸術系機関を探し、そこに連絡を取ることを勧めている。美術館を選ぶ際には「小さければ小さいほどいい」こともあって、時には小さな美術館のほうが作品をより自由に展示できるとのことだ。

金沢21世紀美術館でのPeter Bardazziの展示 (2011年)

Peter Max-Jakobsen

Peter Max-Jakobsen

Peter Max-Jakobsenはデンマーク出身の画家兼彫刻家だ。2010年にVendsyssel Museum of Artにて個展を開き、「人間の視点」という題で2000年から2010年までの88点を展示した。”

オランダはハーグのロイヤルアカデミー(KABK)にて学位を取って一年たらずで、彼はこの美術館に声をかけられ、LED照明とスピーカーのインスタレーションを任された。2003年には完成したばかりのVendsyssel Museum of ArtのAIRに、ここで働く初の招待アーティストとなった。公立美術館で展示することがなぜ大切なのかをPeterに聞いてみた。

どのアーティストも公立美術館での展示は大切だと感じていると思います。多分みんな、大概の人たちが生まれて初めてアートと接するのはここ()だろうと、そう予想しているからだと思うのです。芸術があるべき場所はここだと思っている。美術館は現代美術の最前線だけを選りすぐって展示する場所なのです。

Peter Max-Jakobsenは芸術を通して、ノーマル性を深く探究している。彼は「実在的質問と嵐の頂上」で埋まったエンドレスな灰色の平日を表現して見せている。彼のインスピレーションの多くは哲学小説から得ているそうだ。スカンジナビアでは日常生活の状況について小説が書かれることが多く、Peterはそれに底なしの魅力を感じている。

デンマークのアーティストの中でMax-Jakobsenが芸術的つながりを感じている人たちにはPalle Nielsen (1920-2000)、Christian Lemmerz (1959-)、そしてJørgen Haugen Sørensen (1934-)が挙げられるそうだ。

Vendsyssel Musuem of ArtにおけるPeter Max-Jacobsen個展 「 Human Nature
(2010年)。後方左から: 「 Floor Exercise 1 (2001年)、「 Floor Exercise X (2009年)、「 Tool Exercise 5 (2005年)。前方はインスタレーション「 OFFICE (2008年)。

Norman Lerner

Norman Lerner

“国際的なアーティストNorman Lerner。彼にニューヨークのメトロポリタン美術館(Metropolitan Museum)、コネチカット州のHousatonic Museum of Art、それからニューヨークのMoMAなどの公立美術館での体験談を聞いた。”

Normanは当時の話を思い出しながら、モード雑誌編集の写真家としての一日の仕事が終わった後、リラックスするために水彩画を描いていたと語ってくれた。

© Norman Lerner

学校へも行かず、なんの研修も受けなかったNormanは、自分は生まれつきのアーティストだと信じているそうだ。Normanは情熱から撮った写真シリーズ「The Window People “を創作し、有名になった。その後少しして、この写真シリーズはニューヨークのメトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art de New York)に購入され、そこで展示されることとなったのである。”

Normanにとって公立美術館とは、斬新な作品を展示し次世代へ受け継ぐためにあるとのこと。また、彼によれば、美術館とコラボレーションをするには多くの仕事や公的な露呈、そしてプロモーションを必要とするが、 最終的にはタイミングやチャンスといった自分ではコントロールできないものが重要な鍵となるそうだ。

© Norman Lerner

Normanは彼の苗字「Lerner(学ぶ人). を、人生と芸術を学ぶことの助言として用いている。彼曰く、芸術家とは、生きることのインスピレーションを見つけるために探究し、学び、そして実験するものだそうだ。「人生を充分に生きることをしなければ、そこからインスピレーションは得られないのだ。

Alejandro Arango

Alejandro Arango

“メキシコ出身のAlejandro Arangoは前述のLernerと同じく、ニューヨークメトロポリタン美術館(METへ展示したアーティストだ。Alejandro Arangoの作品「Invocation」は1990年代に学芸員William Liebermanによって購入された。彼は公立美術館をアーティストとコレクショナー、美術愛好家とメディア等、全てが集まる交流点だと捉えている美術館はみんなに自分のアートを見せ、今まで造ったこともなかった最高の作品を発見してもらえる場所なのである。”

Arangoが言うには、美術館とはいろんなタイプの人に向けたショーウィンドウであるから、アーティストとしてのキャリアがどんどん高まるそうだ。そのためには、自分に正直で自己制御ができることがアーティストとしては大切なことだと考えている。最終的には、何が起きても自分のアートを裏切らないことが大事なのだ。

© Alejandro Arango

美術館に展示すると、多くの人の目に留まり、認められることができるので、アーティストにとっては特権である。確かにアートの世界では、美術館もギャラリーも、そこで人々が初めてアートと触れ合う機会を得られると言う点で、どちらも同様に重要な場所だ。

公立美術館はアーティストと鑑賞者の両方の人生において、芸術という視点で重要な役割を果たしている。ここで紹介したアーティスト達の証言によって、美術館に展示することがどれだけ変化に富んでいて、その経験がアーティストのキャリアにどれほどのインパクトを与え得るかということがお分かり頂けただろうか。