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抽象芸術

抽象芸術とは、目に見える対象をそのまま表現することをしない芸術だ。抽象化とは、色や形、独特の記号の効果を用いて、アーティストが伝えたいメッセージ、感情、またアーティスト独自の現実の捉え方を表現することである。

“River(川)、Daniela SCHWEINSBERG、 2017年、キャンバスにアクリル絵具、100 x 120 cm”

抽象絵画の表現方法は広くバラエティーに富み、果てしない可能性のあるアートだと言えよう。何かを抽象化するという行為は、今注目している要因を他の要因と切り離し分離すること、あるいは、その要因を源となる場所から引き抜いてしまうことだと言える。このように理解すると、アーティストが対象に選んだ客観的な現実(物体、人物、風景)を、視覚的に忠実ではなくなるまでに単純化し、整頓し直したアートに対して「抽象絵画」という言葉を用いることができるだろう。 抽象絵画という言葉はまた、客観的な外の世界や現実に起因しない作品に対しても用いられている。この類の抽象絵画には大概、記号や形、動きの軌跡などが使われ、作品自体が独立しており、その内部に閉じたループが存在する。客観的ではない(つまり主観的な)このタイプの抽象絵画は、抽象化の最も純粋な形だというアーティストもいる。とは言っても、こういった抽象絵画の様々なタイプを区別することは時に複雑であり、概して、抽象絵画という言葉は近代美術、現代美術における多様な絵画を含んで用いられているのである。抽象絵画は、20世紀に「発明」されてからというもの、純粋さや霊性あるいは秩序の概念を象徴する精神的な側面を持つものだと考えられている。

“Doubt(疑い)、Niki HARE、2017年、キャンバスにアクリル絵具、102 x 102 cm”

大雑把だが、ルネッサンス以降1850年代までの西洋美術を一絡げにしてフィギュラティヴ・アートと呼ぶ。これは、目に見える世界を一つの視点から忠実かつ理想的に表現した画法のことだ。19世紀末期、社会は急速な変化に見舞われ、多くのアーティストの間で伝統的な描写的絵画はもう時代遅れだという考えが広まった。科学、技術そして哲学の分野におけるたくさんの大変化が、根本から斬新な表現方法、つまり抽象絵画を生んだのだ。これはまさに時代の社会的変異、知的変異を反映したものだと言えるだろう。

“Hesperia、Francesco D’ADAMO、2017年 キャンバスにアクリル絵具、油絵具、コラージュ、ガッシュ、65 x 95 cm”

一般的に、抽象絵画は印象派絵画から派生したものだと考えられている。具体的な先駆けアーティストとしては、その時代の先人達より「抽象的」な技法を試みたターナー(J.M. W. Turner)やマネ(Edouard Manet)、クールベ(Gustave Courbet)などが挙げられる。セザンヌ(Paul Cézanne)の非常に様式化された二次元的な風景画や、キュビズムを生んだピカソ(Pablo Picasso)やブラック(Georges Braque)の画法も、今日私たちが目にしている抽象絵画の成立に重要な役割を果たしている。 キュビズムでは、形が何を表しているのかがもはや分からないほどに、フォームに大きな衰退が見られる。キュビズムのアーティストは、日常の物体のフォームをよりその基本形へと短縮することで最終的に幾何学的なコンポジションを再発見したのである。

“Dancer(ダンサー)、Ewa HAUTON、2017年、キャンバスに油絵具、150 x 200 cm”

ピカソやブラックの作品が具象的な側面を残している一方で、カンジンスキー(Wassily Kandinsky)やマレーヴィチ(Kazimir Malevitch)、クプカ(František Kupka)やドロネー(Sonia Delaunay)は「純粋に」抽象化を試みた先駆アーティストと言えるだろう。濃い色、写実的というより動的な筆跡、幾何学模様や線を用い流ことによって、霊的で内向的な概念を探究し、全く斬新な絵画が創造されたのである。 自由なスタイルで自由な表現が可能な抽象芸術は、20世紀後半の多くのアートの流れに影響を与えている。対象に客観的には向き合わないという抽象芸術の姿勢は、様々なレベルで試され、抽象絵画の代表格のキュビズムやフォービズムから、生粋の美的感覚を追求したシュプレマティスム、ロシア構成主義、そしてモンドリアン(Piet Mondrian)が創始したデ・ステイルというオランダの流れまで、様々な様式を生んでいる。

alle Freudentropfen sammeln、Nadja Gabriela PLEIN、2016年、キャンバスに油絵具、 51 x 66 cm

近代及び現代における美術の流れの基本にはもちろんフィギュラティヴ・アートがあるのだが、純粋な美観の内包する力強さ、そして写実という伝統からの乖離、この二つの要素こそが20世紀後半に起こったほぼ全ての芸術動向のコアにあったと言って良いだろう。例えば、抽象表現主義ポップアートミニマル・アートやコンセプチュアル・アートが挙げられよう。 トが挙げられよう。

Into the blue again a、 Birgit FECHNER、2017年、キャンバスにアクリル絵具、コラージュ、リトグラフィー、 60 x 60 cm

Singulartに所属するアーティストの多くは抽象芸術の自由さを好み、この画法を作品創作に用いている。様々な種類の媒体(大胆な筆跡の油絵具、水彩絵具の混合、アクリル絵具)を通じて、彼ら独自の感情や感覚を表現している。非具象的な表現方法—つまり抽象的な表現方法—の例として Daniela SchweinsbergNiki Hareの描く動きのある筆跡や、イタリア画Francesco D’Adamoの抽象的コンポジションが挙げられるだろう。 女性の抽象画アーティストも紹介したい。Ewa Hautonは木炭の激しいタッチやインド製インクで女性のフォームを表現しつつ、女性性と動きのテーマを探求する半抽象絵画を創作している。またNadja Gabriela Pleinは動きと音楽の概念を、抽象画を通じて追求中だ。