Featured  •  アート専門家  •  注目記事

高橋知憲シェフ ― 彼の実直さ

JINYA Holdingsの創業者で、「陣 JINYA Ramen Bar」をはじめ「bushi 武士 by JINYA」、「Robata JINYA」、そして「JINYA Ramen Express」といった名高いラーメンバーを支える斬新な考えを持った経営者でもある、高橋知憲氏。知憲シェフが成し遂げた最大の功績が2つある。それは、日本食を基にラーメン帝国を築いたこと、そしてJINYAの看板となる完璧なラーメンを仕上げたこと。今回は、彼のシェフとして歩んできた道のり、将来像、自身のラーメンブランドをフランチャイズ展開していくことの難しさについてじっくりと語ってもらった。

知憲シェフは、愛媛県のいわゆる日本の昔ながらの家庭に生まれ育った。大学を卒業後、もっと外の世界を見てみたいと思うようになり、東京へ移住。2000年には、彼にとっては最初のレストランをオープン。2010年になるまでには米国のロサンゼルスに移り、そしてブランドの始まりとなるJINYA Holdingsを創業し、レストランを2店舗オープンした。創業以来、JINYAブランドを拡大し続け、今では米国内で45店舗ものラーメンバーを展開している。

日本とは異なる国へ移住し、自国の食を基盤にしたブランドをスタートさせることはそう容易ではないが、知憲シェフは確信を持って真正面から取り組んだ。彼のシェフとしての一番の思い出は何かと尋ねると、「お客様から、自分が作った料理のコメントを聞けたことが一番の思い出です」と語る。そもそも日本では、自分が食べた料理に対しての感想をシェフに伝える慣習があまりなく、自分が頼んだ料理をたいらげ、店を出るのが一般的だ。しかしロサンゼルスにおいては、客は彼の料理に高い評価を示し、わざわざキッチンにまで足を運んで、あるいはスタッフに、彼の料理がどれだけ素晴らしかったのかを伝えに来た。米国ならではの文化の1つだが、彼にとっては非常に新鮮で、リスクを冒してでも米国へ事業を展開したことに価値があったと確信した瞬間だった。

我々のコレクションにある作品にちなんで、「雨の日に食べるなら何にするか」と、知憲シェフに尋ねてみた。すると、「外に出るには憂鬱すぎるような日こそ、おいしいラーメンを食べるのがいいんじゃないかな」と笑いながらコメント。雨の日に食べたくなるラーメン屋を営んでいる人は知憲シェフ以外にも他にいるが、冷たい雨の日にはもってこいのアツく欠かせないラーメンバーはJINYA以外にない。

知憲シェフと話をしていると心が躍る。彼の仕事に対しての情熱や、「必ずや成功するぞ」という決意を感じ、自分でも何かをしてみようと意欲が湧いてくる。取材をしていると、シェフがどのようにしてアイディアを繋げ、シンプルな食べ物として考えられている料理を食のアートに昇華していくのかが理解できる。「新しいメニューを考えている時も、アート作品を創作する時も、見た目の美しさが非常に重要という点では似ている」と知憲シェフ。彩り、スタイル、食材の配置もしっかり考えなくてはならないとのこと。

知憲シェフのゴールは、本物の日本の料理を米国に持ち込むことだったが、客を魅了し惹きつけるためには、米国人の口に合うようにもしなければならなかった。そのため、シェフは膨大な時間を注ぎ込み、完璧なメニューの開発を進める。例えば当時の欧米のトレンドをリサーチし、地元に根付く人気和食店でのメニューもくまなく調べ尽くした。和食をベースに、欧米スタイルの盛り付けや見た目を上手く混ぜ合わせることで、完璧なまでに二つの文化をブレンドさせ、JINYAブランドならではの唯一無二の「一杯」を創り出すことができた。

知憲シェフは今やシェフとしての顔だけではなく、米国内で40以上もの店舗数を持つ経営者でもある。今となっては以前に比べてキッチンに立つことも減り、この成功の裏側には、経営と料理に折り合いをつけてきた彼の姿がうかがえる。米国への移住により、JINYAブランドの成長だけに重きを置くことになってしまった。しかし、経営者としてブランドの拡大を現時点の最優先事項に据えながらも、キッチンに立ち続け、新しいメニューを創るシェフとしての姿もそこにあった。

知憲シェフの野望が垣間見えた瞬間があった。とりわけ、彼が会社に対して抱く夢について語っている時だ。“Eataly”という、ショッピングセンターについての話が挙がった。そこでは、イタリアの食料品や飲み物、レストランなど、イタリアにまつわる様な“食”に触れることができるという。米国の大都市のど真ん中にいながらも、その体験をいかにして実現しているかが興味深いのだという。続けて「僕は日本の食べ物で日本食版の”Eataly”を創りたいんだ」と述べる。彼の出身国の食べ物を存分に楽しめる場所 ー オンリーワンでホンモノの日本の体験を、米国やその他の国でも創り上げたいという夢が彼にはある。

「動く。スピードが命。決して止まることなく、それが価値あるものかどうかを考える。アイディアが浮かべば実行に移し、ポジティブでいること。そして素早く動く。自分が持つクリエイティブな考えを追求していけばいい。」

高橋 知憲

クリエイティブな熱意やユニークなアイディアを持っている人や追求する方法、そもそも追求すべきか否かと悩んでいる人に向けて、知憲シェフから熱意あるアドバイスを頂いた。「動く。スピードが命。決して止まることなく、それが価値あるものかどうかを考える。アイディアが浮かべば実行に移し、ポジティブにいること。そして素早く動く。自分が持つクリエイティブな考えを追求していけばいい。」というアドバイスでインタビューを締めくくってくれた。

最寄りのJINYAブランドについては、下記のリンクより確認を。唯一無二のラーメン体験が見つかるかもしれません。

SINGULARTのComfort Food Collectionを見る